大阪地方裁判所 平成6年(ワ)9086号 判決 1996年1月30日
原告
相互信用金庫
右代表者代表理事
西口秀夫
右訴訟代理人弁護士
西垣剛
同
八重澤聰治
同
針原祥次
右訴訟復代理人弁護士
宇田隆史
同
石田文三
同
川村哲二
被告
稲垣輝司
右訴訟代理人弁護士
川崎伸男
同
須藤隆二
主文
一 被告は、原告に対し、平井武と連帯して金二〇〇〇万円を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを七分し、その六を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、平井武と連帯して金一億三五〇二万三二九一円及びこれに対する平成六年七月一二日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、平井武(以下「平井」という。)との間で、昭和五三年五月三一日、次の約定で証書貸付等に関する継続的信用金庫取引契約(以下「本件継続的取引契約」という。)を締結した。
(1) 平井は、手形交換所の取引停止処分を受けたときは、一切の債務について当然に期限の利益を失い、直ちに債務を弁済する。
(2) 平井は、手形の割引を受けた場合において、手形交換所の取引停止処分を受けたとき又は手形の主債務者が満期に支払をしないときは、全部の手形を額面金額で買い戻す債務を負う。
(3) 遅延損害金は年一四パーセントとする。
2 被告は、原告に対し、昭和五九年二月二五日、本件継続的取引契約に基づいて発生する平井の債務を連帯して保証する旨を約した(以下「本件連帯保証契約」という。)。
3 原告は、平井に対し、本件継続的取引契約に基づいて、平成元年三月二九日、次の約定で一億三〇〇〇万円を貸し付けた(以下「本件消費貸借契約①」という。)。
(1) 弁済期 平成二六年三月二七日
(2) 利息 年7.8パーセント
4 原告は、平井に対し、本件継続的取引契約に基づいて、平成六年三月一五日、別紙約束手形目録一記載の約束手形の割引をし、平成六年四月五日、同目録二記載の約束手形の割引をし、平成六年五月六日、同目録三記載の約束手形の割引をし、平成六年六月六日、同目録四記載の約束手形(以上の四通の約束手形を「本件約束手形」という。)の割引をした。
5 原告は、平井に対し、本件継続的取引契約に基づいて、平成五年八月三〇日、別紙約束手形目録五記載の約束手形の手形貸付により、次の約定で一〇八〇万円を貸し付けた(以下「本件消費貸借契約②」という。)。
(1) 弁済期 平成六年八月二五日
(2) 利息 年7.1パーセント
6 原告は、別紙約束手形目録一記載の約束手形を満期に支払場所において支払のため呈示をしたが、資金不足を理由として支払を受けることができなかった。
7 平井は、平成六年七月一一日、大阪手形交換所の取引停止処分を受けた。
よって、原告は、被告に対し、本件連帯保証契約に基づいて、平井の債務の履行として、平井と連帯して、本件消費貸借契約①の残元金一億一八〇三万二七〇〇円、本件約束手形の買戻金八〇一万五三三一円及び本件消費貸借契約②の残元金八九七万五二六〇円の合計一億三五〇二万三二九一円並びに右の一億三五〇二万三二九一円に対する期限の利益の喪失の日の翌日である平成六年七月一二日から支払済みまで約定の年一四パーセントの割合による遅延損害金を支払うことを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は知らない。
2 同2の事実は否認する。
3 同3、4、5、6及び7の事実は知らない。
三 抗弁
1 (保証限度額の合意)
被告と原告は、本件連帯保証契約について、被告の保証限度額を二〇〇万円とする旨の合意をした。
2 (保証責任の排除・限定)
仮に右の二〇〇万円の限度額の合意が認められないとすれば、本件連帯保証契約は継続的取引契約上の債務の保証であって保証期間及び保証債務の限度額の定めがない契約であるから、本件連帯保証契約に関する諸事情を斟酌し、信義則上、被告の保証責任を排除し、又は被告の保証責任を二〇〇万円程度に限定すべきである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認する。
2 抗弁2のうち、本件連帯保証契約が継続的取引契約上の債務の保証であって保証期間及び保証債務の限度額の定めがない契約であることは認めるが、その余の事実は否認する。
第三 理由
一 請求の原因について
1 甲第一号証(信用金庫取引約定書)、第二号証(印鑑登録証明書)及び第二七号証(陳述書)並びに証人拝野敏夫の証言によれば、原告が平井との間で昭和五三年五月三一日に本件継続的取引契約を締結したことが認められる。
2 次いで、甲第三号証(信用金庫取引追加保証約定書)、第四号証(印鑑登録証明書)及び第二七号証(陳述書)並びに証人拝野敏夫及び証人木村優の証言によれば、被告が原告に対して昭和五九年二月二五日に本件継続的取引契約に基づいて発生する平井の債務を連帯して保証する旨を約したことが認められる。この点について、被告は、本人尋問において、甲第三号証の文書は住所変更のための書類に過ぎないと思っていたと供述しているけれども、甲第三号証の文書が「信用金庫取引追加保証約定書」であることは、その体裁上明らかであって、右の供述の信憑性には疑いを差し挟む余地があり、到底十分な反証ということはできない。
3 甲第五号証(金銭消費貸借証書)及び証人拝野敏夫の証言によれば、原告が平井との間で本件継続的取引契約に基づいて平成元年三月二九日に一億三〇〇〇万円を貸し付ける旨の本件消費貸借契約①を締結したことが認められる。
4 甲第一五号証(約束手形)、第一六号証(手形割引申込書)、第一七号証(約束手形)、第一八号証(手形割引申込書)、第一九号証(約束手形)、第二〇号証(手形割引申込書)、第二一号証(約束手形)、第二二号証(手形割引申込書)及び第二八号証(陳述書)によれば、原告は、平井に対し、本件継続的取引契約に基づいて、(1)平成六年三月一五日、別紙約束手形目録一記載の割引をし、(2)平成六年四月五日、同目録二記載の約束手形の割引をし、(3)平成六年五月六日、同目録三記載の約束手形の割引をし、(4)平成六年六月六日、同目録四記載の約束手形の割引をしたことが認められる。
5 更に、甲第二三号証(約束手形)、第二四号証(手形借入金返済並びに利息支払に関する自動振替契約書)及び第二八号証(陳述書)によれば、原告が平井との間で本件継続的取引契約に基づいて平成五年八月三〇日に別紙約束手形目録五記載の約束手形の手形貸付により一〇八〇万円を貸し付ける旨の本件消費貸借契約②を締結したことが認められる。
6 また、甲第八号証(報告書)、第一五号証(約束手形)、第一六号証(手形割引申込書)、第一七号証(約束手形)、第一八号証(手形割引申込書)、第一九号証(約束手形)、第二〇号証(手形割引申込書)、第二一号証(約束手形)、第二二号証(手形割引申込書)、第二三号証(約束手形)及び第二八号証(陳述書)によれば、原告が別紙約束手形目録一記載の約束手形を満期に支払場所において支払のため呈示をしたが、資金不足を理由として支払を受けることができなかったこと及び平井が平成六年七月一一日に大阪手形交換所の取引停止処分を受けたことが認められる。
二 抗弁について
1 まず、抗弁1(保証限度額の合意)について検討すると、被告は、被告と原告は、本件連帯保証契約について、被告の保証限度額を二〇〇万円とする旨の合意をしたと主張しているけれども、この合意が成立したことを証明する証拠はないといわざるを得ない(被告は、本人尋問において、前記のとおり、甲第三号証の文書は住所変更のための書類に過ぎないと思っていたと供述し、本件連帯保証契約を締結したこと自体を否認している。)。
2 次いで、抗弁2(保証責任の排除・限定)について検討する。
(1) 被告は、仮に右の二〇〇万円の限度額の合意が認められないとすれば、本件連帯保証契約は継続的取引契約上の債務の保証であって保証期間及び保証債務の限度額の定めがない契約であるから、本件連帯保証契約に関する諸事情を斟酌し、信義則上、被告の保証責任を排除し、又は被告の保証責任を二〇〇万円程度に限定すべきであると主張しているところ、本件連帯保証契約が継続的取引契約上の債務の保証であって保証期間及び保証債務の限度額の定めがない契約であることは当事者間に争いがない。
(2) 甲第一号証(信用金庫取引約定書)、第三号証(信用金庫取引追加保証約定書)、第一〇号証の二(信用金庫取引追加保証約定書)及び第二七号証(陳述書)、証人拝野敏夫及び証人木村優の証言並びに被告の本人尋問における供述によれば、①原告が平井との間で昭和五三年五月三一日に本件継続的取引契約(甲第一号証)を締結した際の連帯保証人は福原定男であったこと、②ところが、原告は、平井から、昭和五八年七月頃に二〇〇万円の融資の申込みを受けた際に福原定男とは疎遠になっていると聞いたため、平井に対し、新たな連帯保証人を要求したこと、③そこで、平井の娘婿である被告が右の融資の連帯保証人となり、第一〇号証の二の信用金庫取引追加保証約定書に署名及び捺印をしたが、その際、被告は、右の約定書に「七月二三日に実行する二〇〇万円のみを保証する」旨を手書きし、その旨を明示したこと、④その後、平井が原告に対して継続的に融資を受けたい旨の申込みをしたため、原告は、平井に対し、継続的な取引について連帯保証人を要求したこと、⑤そこで、被告が再び連帯保証人になり、昭和五九年二月二五日に甲第三号証の信用金庫取引追加保証約定書に署名及び捺印をしたこと、⑥当時の平井の月商は七、八〇〇万円程度であり、原告の平井に対する与信枠は三〇〇〇万円前後であったこと、⑦当時の平井に対する貸付金額は一五〇〇万円から二〇〇〇万円程度であったが、その後、平井の事業は拡大し、平成元年以降の月商は三〇〇〇万円を超えたこと、⑧原告は、平井に対し、平成元年三月二九日、工場用の土地及び建物の購入資金として一億三〇〇〇万円を貸し付けるに至ったが、その際、右の土地及び建物に抵当権を設定した上、平井の妻で被告の娘である平井光子に対し、連帯保証人になることを求め、平井光子は、甲第五号証の金銭消費貸借証書の連帯保証人欄に署名及び捺印をしたこと、⑨しかしながら、原告は、被告に対し、右の一億三〇〇〇万円の貸付けについて特に説明をしていないし、その意向の打診もしていないこと、⑩原告は、平井に対し前記のとおり手形割引及び手形貸付けをした際にも、被告に対して説明をしていないし、その意向の打診もしていないこと、⑪その後、原告は、連帯保証契約について、連帯保証人が貸付先の会社の社長等である場合を除いて、原則として、保証期間及び保証債務の限度額の定めのある契約を締結することに改めたこと、⑫そして、原告は、平井光子との間でも、平井の債務について二〇〇〇万円を限度額とし、期間を五年間とする旨の連帯保証契約を締結していること――等の事情を認めることができる。なお、原告は、前記の平井に対する一億三〇〇〇万円の貸付けについては、平井が被告に相談していたことは明らかであり、被告は、右の貸付けを十分に承知していたと主張しているけれども、右の主張は裏付けのない推測に過ぎず、右の主張を十分に証明する証拠はないものといわなければならない。
(3) 本件連帯保証契約が継続的取引契約上の債務の保証であって保証期間及び保証債務の限度額の定めがない契約であることからして、右の諸事情のうち、本件連帯保証契約の締結の当時の原告の平井に対する与信枠は三〇〇〇万円前後であり、平井に対する現実の貸付金額が一五〇〇万円から二〇〇〇万円程度であったこと、本件で原告が履行の請求をしている平井の債務は、本件連帯保証契約の締結後五年以上も経過した後に発生しているものであること、特に平成元年三月の一億三〇〇〇万円の融資は、平井の工場用の土地及び建物の購入資金であって、本件連帯保証契約の締結の当時には予想することが困難な取引であったこと、したがって、被告は、右の一億三〇〇〇万円の融資に際しては、相当期間の経過等を理由として本件連帯保証契約を解約することができたものと考えられるところ、原告は、被告に対し、右の一億三〇〇〇万円の貸付けについて特に説明をしていないし、本件連帯保証契約を維持するか解約するか等の被告の意向の打診もしていないこと――等の事情を重視し、その他の事情をも併せて勘案すれば、信義則上、被告の保証責任は二〇〇〇万円の範囲に限定することが相当であると判断する。
三 よって、原告の請求は、平井武と連帯して金二〇〇〇万円の支払を求める限度で理由があるから、右の限度で認容し(ただし、仮執行宣言は相当でないから、仮執行宣言を求める旨の原告の申立ては却下する。)、その余の請求は棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官小林昭彦)
約束手形目録
一 金額 金一四九万六八〇〇円
満期 平成六年七月五日
支払地 池田市
支払場所 池田銀行本店営業部
振出地 池田市神田二丁目七の一七
振出日 平成六年三月一〇日
振出人 株式会社中下浦工務店
受取人 平井商店
第一裏書人 同右
(支払拒絶証書作成義務免除)
第一被裏書人 相互信用金庫
二 金額 金二六五万四〇〇〇円
満期 平成六年八月五日
支払地 池田市
支払場所 池田銀行本店営業部
振出地 池田市神田二丁目七の一七
振出日 平成六年三月三一日
振出人 株式会社中下浦工務店
受取人 平井商店
第一裏書人 同右
(支払拒絶証書作成義務免除)
第一被裏書人 相互信用金庫
三 金額 金二八六万四五三一円
満期 平成六年九月五日
支払地 池田市
支払場所 池田銀行本店営業部
振出地 池田市神田二丁目七の一七
振出日 平成 年 月 日
振出人 株式会社中下浦工務店
受取人 平井武
第一裏書人 同右
(支払拒絶証書作成義務免除)
第一被裏書人 相互信用金庫
四 金額 金一〇〇万円
満期 平成六年一〇月五日
支払地 池田市
支払場所 池田銀行本店営業部
振出地 池田市神田二丁目七の一七
振出日 平成 年 月 日
振出人 株式会社中下浦工務店
受取人 平井商店
第一裏書人 同右
(支払拒絶証書作成義務免除)
第一被裏書人 相互信用金庫
五 金額 金一〇八〇万円
満期 平成六年八月二五日
支払地 大阪市
支払場所 相互信用金庫西支店
振出地 大阪市西区九条南二丁目七番一七号
振出日 平成五年八月三〇日
振出人 平井武
受取人 相互信用金庫